和食の味を決める「いつもの調味料」こそ、こだわりのものを使いたいですよね。島根の生産者さんの旅の最後にご紹介するのは、奥出雲で100年以上お醤油づくりを営む「森田醤油店」さんです。

減塩ブームをきっかけに、食べ続けられるものづくりに没頭

冬には大雪も降る豪雪地帯の奥出雲にある、森田醤油さん。1903年頃の創業以来の蔵で、5代続く昔ながらの方法で無添加のお醤油をつくっています。

木造りの桶は、もう作れる職人さんが居ない貴重なもの。県外から譲り受けたりして、再利用しているそうです

蔵にはもろみが入った高さ2メートルほどの木桶がたくさん。細い足場の板だけでひょいひょいと移動して、撹拌作業をするそうです。じっくり撹拌させて、将来のお醤油になるもろみと向き合います。

「うちは原料の大豆と小麦は国産で非遺伝子組み換え品を使い、ポン酢などに使うだしも自社で煮出しています」と、4代目の森田郁史さん。そんな郁史さんが無添加のお醤油をつくるようになったきっかけは、「ポン酢」だったといいます。

ユーモアたっぷり、発想豊かな郁史さん。森田醤油さんのお醤油作りを精力的に発展させてきました

郁史さんは、40年ほど前から蔵に入り、お醤油づくりを手掛けるようになりました。そして、その頃国内に沸き起こった「減塩ブーム」に直面します。

「それまでは、近隣にお醤油を売る昔ながらのお醤油屋さんをやっていました。ところが、減塩ブームで血圧のことなどが謳われて、醤油や味噌の消費に曲がり角がやってきた。そこで、どうやって醤油を食べてもらうかを考えるようになりました」

当時はまだ『塩』といえば専売制でほぼ精製塩しかない時代。郁史さんは生産者さんらが行っていた塩の勉強会などに参加します。沖縄の自然塩を使い、そこに含まれる「ミネラル」の働きを使って美味しく、健康を気にする人にもまた、醤油を楽しんでもらえないか考えつきました。

「加工品の裏にある、ラベルの原材料を見るというのはとっても大事。色々なことがここからわかるんですよ」と郁史さん

試行錯誤を繰り返すうちに、郁史さんは「ラベルの記載」にヒントを得ます。「消費量が減っていく中で、取り組んでみようと思ったのがポン酢でした。当時はまだ『塩』といえばほぼ精製塩しかなく、だしを入れてもラベルにはそのまま『だし』としか表記されていませんでした。でも、だしだって昆布も鰹もあるわけだし、地元には美味しい柑橘がいろいろあって、味だってさまざま。ここにこだわるのは、おもしろそうだと思ったんです。

「1985年頃かな、勉強会に参加していた農家さんに原料に使う大豆の作付けをお願いしたのは…。当時はまだ、醤油屋がポン酢をつくるなんて当たり前じゃなかった時代。その4年後ぐらいに自分が『こういうのが食べたい』と思うポン酢がやっとできて、ある小売店に見てもらったんです。

そうしたら、その人に『いずれポン酢も醤油も、何でできているか、商品に書かなければいけない時代が来るよ』と言われたんですね。それで、あぁそうか、僕たちもやらないとと。まだ遺伝子組み換え原料やBSEなどが叫ばれる前でしたね」

ポン酢づくりから、有機のお醤油づくりのヒントを発見!

時間をかけて発酵し、じわーっと抽出されるお醤油。「お醤油を絞る」って、本当にこうして絞るんですね

「実はポン酢の開発をしている時、原材料の詳細を調べていると、『かつおエキス』と表示されているものの中に鰹以外のものも使われていることがわかって、衝撃を受けたんです。それで、息子がそのだしを飲もうとした時に『そんなに飲むな』ととっさに止めてしまった。それでハッとして。今までのレシピを全部やめて、胸を張って飲ませられるものを作らないといけないと思ったんです」

元々は、国産大豆と麹しか原料にはなかったはずのお醤油づくり。郁史さんはそこに立ち返り、「自分がこういうのを食べたい、食べさせたい」と思うものづくりをスタートさせます。

お醤油だけでも、こんなに色合い豊か。森田醤油店さんのお醤油は数え切れないほどつくっているそうです。一部商品はビオセボンでも販売中!

そうしてポン酢の開発から、森田醤油店の根本でもあるお醤油づくりのヒントを得た郁史さん。だしの配合を変えたり、素材を変えたりして約2年経ち、やっと納得の行くものができてきたと語ります。

「醤油は、タンパク質の旨みだけではないですから。使う小麦や不要とされる大豆の油分が、甘味や香りを引き出してくれる。そういう複雑な反応が合わさっているのがアルコール発酵。おいしくするコツですか?うーん、『麹の気持ちになって考える』ことですかね。

醤油づくりは、麹室(こうじむろ)で麹をつくっている時間がすごく長いです。冬の間は『寒仕込み』といって、ずっと麹室詰め。朝5時から3日間つきっきりで手作業でやっています。そのときの感覚とか、麹の様子が重要です」と郁史さん。麹室の音が聞こえる部屋で寝泊りしているという郁史さん。とても自然体、だけど発想をもとに突き進む姿がとても印象的でした!

5代目・浩平さんに気付きを与えた、「チーム島根」の助け

木樽の中にたっぷり入ったもろみについて説明してくれた浩平さん。郁史さんとのものづくりが、さらに進化しそうですね!

そして森田醤油店にとって心強いのが、5代目として、2015年からお参加している息子の浩平さん。しかし、初めは醤油づくりを継ぐつもりではなかったと言います。

「もともと、醸造を含む食品加工の勉強をして、無添加の加工食品に関わる仕事がしたいと思っていました。でも手伝っていた展示会準備中に母が入院したために父が島根に帰ってしまい、、東京での森田醤油店の展示会を一人で手伝わなければいけなくなりました。その際、(前回の記事で紹介した)別所さんや島根県の生産者さんたちに助けてもらいながら、うちがどんなものづくりをしているかを教えてもらったんです。それで、『こんなに身近に無添加のものづくりがあったんだ』と気付いて…」

浩平さんも今ではすっかり欠かせない蔵人の一人として、冬は麹づくりに、夏は製造の合間の展示会にも大忙しなのだそうです。

それにしても、なんと、ここでも別所さんがご縁をつないでいました!島根の生産者さんはまるで「チーム島根」という感じ。助け合ったり掛け値なしのアドバイスを下さったりと、本当に素敵なつながりがあるのだなと感じました。

胸を張って食べさせられる醤油づくり。「おもしろい」からもっとやる気になる。

森田醤油店さんのお醤油やポン酢は、塩味の加減だけではなく甘みや香りも豊かで「飲みたくなるポン酢」!?なんて言われているそうです。「近隣の人に試食してもらいながらつくっていくうちに、『じゃあ、うちの醤油も作って』と頼まれるようになり、バリエーションが増えていったと語ります。

「使っている果汁はゆず、すだち、だいだいの3種類。ゆずも様々な産地のものを使い分け、全部で10種類以上のポン酢があるんです。どれも苦味や香りが違っておもしろいですよ。

それに、うちはリクエスト歓迎なんです。おもしろそうと思うと、ついつい試してしまいます。もちろん失敗も多いけれど、成功の蓄積ではいいものって作れないと思うんですね。やっぱり、失敗の蓄積って大事です。それに、添加物がなくてもおもしろいものを作れたらすごくおもしろいじゃないですか」

取材の合間に、森田さんのお醤油をだしに使っているおいしいお蕎麦屋さんに連れて行ってもらいました!

「おもしろい」という気持ちに突き動かされ、お醤油の未来を切り拓いた森田さん。
島根という豊かな土地と豊かな人が合わさると、こんなふうにおもしろいものづくりが生まれるんですね!

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